原町散歩 第4回 四月のお散歩

新宿区原町・喜久井町・早稲田南町

原町界隈は寺の町。当社からゆっくり歩いて10分ほどの距離に、20を超えるお寺があり、それぞれのお庭が四季折々の風情で目を楽しませてくれます。

raigouji_saru_new.JPGこの季節、桜といえばまず原町の常立寺。夏目坂通りから横丁を東へ入った常立寺は桜の老木が毎年庭いっぱいにみごとな花を咲かせます。

喜久井町の交差点から早稲田に少し下った来迎寺も立派な桜が山門越しに眺められます。延宝4年(1676)に造立された板碑型の庚申塔は「武州湯原郡牛込馬場下町」の陰刻があり、江戸時代になっても中世当時の古地名を記した史料として考古学的にも貴重なもの。塔の表面中央に彫られた三猿が、花の下、のんびりとした雰囲気を醸し出しています。

通りに面して山門のある感通寺は梅、杏、桜、辛夷、花蘇芳と切れ目無く花を楽しめるお庭。片隅にしつらえられた浅い池はビオトープの趣。この時期には毎年たくさんのおたまじゃくしを見ることができ、蝦蟇蛙がしっかり都会の真ん中で繁殖していることが分かります。原町から大久保通りを東へ牛込柳町方面に降りていく途中の幸國寺は、新宿区天然記念物に指定される樹齢五百年に及ぶ二本の大銀杏をはじめ、この辺りには珍しい鬱蒼と木々の茂るお庭。芽吹きの季節には、境内全体が薄緑色に染まります。

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原町周辺にお寺がたくさん集まっているのは江戸期に遡ります。寺院は宗教施設であるとともに、広い境内、頑丈な塀や門、建物を利用して、いざというときの都市防衛の最前線となる施設でした。そのため、江戸の都市計画では、町を取りまくように主要な街道に沿って、また街道の交わるところにお寺が集中的に配置されました。また寺院は戸籍や住民票を管理する役所の機能を持っていましたので、建物がある程度の規模で集中しているほうが便利だったのかもしれません。江戸の町の発展に伴ってお寺も徐々に郊外に移動していきますが、今でもその名残が東京のあちこちで見ることができます。

sousanji_sakura.JPGさて散歩の最後は幸國寺から外苑東通りを北に。早稲田通りとの交差点付近にある宗参寺。新宿区はもと牛込区、四谷区、淀橋区の三区が1947年に合併して誕生しました。当社がある原町はその牛込区内に当たる場所。「牛込」は牛の牧場に因む地名で、大宝律令に見える武蔵国「神崎の牛牧(うしまき)」があった地ではないかとも言われています。牛込の地名が資料に現れるのは1340年「足利義椿御教書」。そのころ上野国赤城山付近の領主大胡氏が、小田原北条氏に仕え、牛込に城を築いて牛込氏を名乗ったようです。その牛込勝正が父勝行と祖父重行の菩提を弔うために天文13年(1544)創建したと伝えられるのが宗参寺。ここには牛込氏のお墓、江戸前期の儒学者で軍学者の山鹿素行のお墓があり、今は門前の枝垂桜が満開です。

Y. O.