ゲンブのブ

1月6日は小寒。これから晩冬の、一番寒い時期に入ります。年末年始はクリスマス、お正月と華やかな色が溢れていましたが、冬は本来「黒」「北」の季節とされてきました。そこで今回は、北を守護する「玄武」という神獣を取り上げてみます。

古代中国では、四方にそれぞれ守護神がいるとされていました。東が青龍、南が朱雀、西が白虎、そして北が玄武です。玄武の「玄」は奥深さや黒い色を表しますから「青」「朱」「白」と釣りあいますが、「武」は? 青龍は龍、白虎は虎、朱雀も(スズメではありませんが)鳥、と分かります。しかし玄武は名前からはどんな生き物か分かりません。

玄武は水の神ともされ、亀と蛇が絡んだ姿で表されます。実は、横浜中華街の北門が「玄武門」、ここに玄武がいます。

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しかし「武」は亀の意味でも蛇の意味でもありません。「武」とは一体何なのか調べてみたのですが、国語辞典も百科事典も、この疑問には答えてくれませんでした。大修館の大漢和辞典の「武」の項目ですら、それらしい記述はありません。

それでも、答えの鍵となったのはこの大漢和辞典でした。「玄」の熟語のなかに「玄武」があり、語源が引用されていたのです。中国、戦国時代の「楚辞」のなかの一巻、「遠遊」という詩の第七段に出てきた玄武についての補注、という、何とも奥深いところからとられていました。

この詩は、神々を従えて天地をめぐるというスケールの大きな話です。漢文は漢字がどうしても出せなかったので、訳文だけご紹介しましょう(出典は下の参考文献です)。

「時刻は夕方に近く、ぼんやりとして、日も薄れてきたので、玄武を召して走りながらついて来させ、文昌をしんがりにして行列を掌らせ、多くの神々を選びわけてそれぞれの役につけ、車を並べて走らせた。」

亀が懸命に(?)走る姿についての突っ込みはさておき、問題の補注も訳されています。
「玄武は亀蛇を謂ふ。位北方にあり、故に玄と曰ひ、身に鱗甲あり、故に武と曰ふ」。他にも説はあるのだと思いますが、ここでは鱗と甲羅を鎧に見立てているようです。言われてみれば、黒くて大きくて、なかなか物々しい姿になりそうですね。

猛々しい龍や虎、鳳凰のような朱雀に比べて玄武には地味な印象があるのですが、玄冬とも言われるこの季節、北風が寒いときには、北方の黒くて冷たい神獣を想像してみてはいかがでしょう。地上の亀や蛇が冬眠から覚める頃まで……

参考文献:『大漢和辞典』巻7(諸橋轍次著、修訂第2版、大修館書店)
       『楚辞』(「漢詩大系」第3巻、藤野岩友著、集英社、昭和42年)

C. K.