2004年7月のコラム

 蝉時雨<せみしぐれ> 記憶の中に たたずむ子 

蝉の一生は昆虫の中では長い方であるにもかかわらず、地中で過ご
す幼生期に比べ、空を飛べる成虫の期間が短いからでしょうか。
くっきりと残る「抜け殻」が寂寥感を醸し出しているから、それと
も、羽の透き通った様が「儚<はかな>さ」を演出しているからでしょ
うか。 
個人的なイメージですが、「蝉<せみ>」を思い浮かべる時、「すぐ
そばで鳴いているはずなのに、遠くに聞こえる声の中、一人たたず
んでいる子供」という情景が浮かんできます。 

「閑<しずか>さや岩にしみ入蝉の声」という芭蕉の句に代表される
ように、実際の騒がしさが「静」へのベクトルに変わる歌が多く見
られるのも面白いことだと思います。 
もちろん、「カナカナカナカナ…」と夕暮れ時に響く蜩<ヒグラシ>
の声などは、それだけで情緒あふれるものですが。 

平安時代の人々の衣服(十二単などですね)で、
 
 衣服の表地と裏地の色の組み合わせ(重色目) 
 重ねて着るときの上下2枚以上の衣の色の組み合わせ(襲色目) 
 布を織る際、縦糸と横糸の色の違いで表現したもの(織り色目) 
を「かさねの色目<いろめ>」というそうです。 

主に情景(「氷」の襲ね等)や植物(「紅葉」の襲ね等)にちなんだ名
前が付けられていますが、そんな中、2種類だけ虫にちなんで名づ
けられたものがあります。その内の一つが、表:檜皮色<ひわだいろ>
(今の茶色)、裏:青(今の緑色)の組み合わせである「蝉の羽」です。 
 ┌色目「蝉の羽」についての詳細はこちら。
 ↓その他、興味深い日本の歴史をみることができます。 
 ◎風俗博物館~よみがえる源氏物語の世界~ http://www.iz2.or.jp/
  の「エッセイ論文集」の一つ、
  ●「夏、蝉は夏を彩る虫」http://www.iz2.or.jp/essay/4-11.htm

 決して色を愛でる対象ではないだろう蝉が、このように色目の中に
入っているというのは興味深いことです。昔からそれだけ人々の心
に入り込んでいる虫なのだと思わされます。

 ──と思いを馳せてみたものの、現実に返ると相当うるさいものが
ございます。 
夏の風物詩とはいえ、仕事中はつらいものがあるのも事実。 
芭蕉もまた、「撞鐘もひびくやうなり蝉の声」とも詠んでいます。 

「名古屋にはアブラゼミしかいない!」とは社員Y氏の言葉です
が、日本に棲息するセミは30余種類だそうです。 
アブラゼミ、クマゼミ、ツクツクボウシ、ヒグラシ、ミンミンゼミ
…この辺りが有名どころ、そしてこの中でも大音声<だいおんじょう>
をリードしているのは、アブラゼミ、クマゼミ、ミンミンゼミあたり
でしょうか(関西街中ではクマゼミ、等、地域によってリードする
セミは違うようです!)。 
 ┌こちらでセミの声を聞くことができます。 
 ↓その他、セミについて詳しく扱っていらっしゃいます。
 ◎セミの家 http://homepage2.nifty.com/saisho/Zikade.html

 実際、今年の夏も窓越しにミンミンゼミの声が鳴り響き、耳栓をし
たくなるような日が続きました。 

  蝉の声 現<うつつ>に戻り 鐘の中 

…お粗末さまでございます。

文責:KonoK