対話システムと幼児の質問

人間とコンピューターとの間でテキストや音声を介して会話をするための対話システムの開発は、かれこれ半世紀以上の歴史があるそうです。最新の研究では人間の質問にただ回答するだけではなく、特に目的が無く必ずしも回答を必要としないような雑談スタイルの対話に対応できるシステムも作られつつあるようです。研究段階が雑談システムへ移ったということは、質問や要求に回答するというタスク型の対話システムは、ある程度完成の目処が見えてきているということなのでしょうか。

「質問に回答する」と一口で言うと簡単そうですが、会話のトピックと文脈を理解して蓄積された膨大な知識データの中から適切な応答を作り出すのは、コンピューターであれば一瞬でも、人間が資料(辞書や辞典、ネット検索など)なしでその場でやろうとするとかなり大変です。最近、幼児との間で下記のような会話がありました。

 親「お風呂に入ろうか」
 子「なんで?」
 親「え?入らないと汚いでしょ」
 子「なんで?」
 親「なんでって…、今日は外で汗かいたし」
 子「汗かいたらなんで汚いの?」
 親「ん?…、汗には老廃物が含まれてて…」
 子「なんで?」
 親「え?(そういえばなぜだ)」
 子「なんで?」
 親「あれかな…、新陳代謝?排泄物とか古い細胞?を外に出してるんじゃないのかな」
 子「それがが汚いの?」
 親「え?…汚いんじゃないかな、たぶん」
 子「なんで?」
 親「えーと…、そのままにしておくと汗臭くなるよね」
 子「なんで?」
 親「えっ」
 子「なんでなんで?」
 親「(なんでだ?)…、雑菌がわくせいかな」
 子「なんで?」
 親「は?」
 子「雑菌って何?なんでわくの?」
 親「えー…(ググりたいぜ)」

最近、幼児との間でこのような「なんで?なぜ?」が繰り返される詰問型の会話が増えてきて困っています。ひたすら「なぜ」と問われ続けていると、やがて会話が必ず行き詰ります。自分の知識に限界があるために、回答できなくなってしまうからです。しょっぱなから答えられないような質問をされる時もあり、自分の知識のなさに愕然とすることもあります(例:石けんはどうして泡立つの?)。このような幼児による質問の応酬は、実はそれほど正確な回答を求めているのではなく、ただ会話のキャッチボールを楽しんでいるだけなのかもとも思えるのですが、質問にきちんと回答できない度に大人としてのプライドが傷ついて、つらいのです。上記の会話例においても、明確に自信を持って返答出来た回答はほとんどありません。

常にアップデートし続けることができる膨大な知識データベースを基にした、どんな質問にでも回答できるようなシステムがもしあれば、このような幼児の質問のループにもきっと回答し続けることができるのでしょう。そのようなシステムがオンラインで提供されれば、回答に詰まる親や先生のストレスもなくなりそうです。夏休みなどにラジオでよく行われている子供電話相談室も、やがてそんな対話システムが即答してくれるようになる日も近いかもしれません。

でも同時に、そんな万能の対話システムにも回答できないような質問を作り出し続けねばならない義務が人間(特に幼児)にはあるような気がしています(例:卵とにわとりはどっちが先?)。もしそのような質問を幼児に投げかけられたら記録しておいて、将来の対話システムに尋ねてみようと思っています。

S.K.