2005年1月のコラム

アルトは弾んでいるか?

早稲田・夏目坂の当社オフィスで言語学実験に参加されたことのある方も多いと思いますが、外から見たアルトってどんな印象なんでしょうか。例えば、こういうイメージは?

明るく開放的で弾むように相手の心に飛び込んで行くが、確固たる芯を持つしっかり者

『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』(黒川伊保子著・新潮新書)
という本の理屈をもとに「アイアール・アルト」ということばの響きが与えるイメージを分析した結果がこれなんです。本書の内容は簡単にまとめると、ことばの音はそれぞれ独特のイメージ・質感を持つ。そのイメージは舌の動きや息の出し方など発音のしくみにもとづき言語普遍的で、人間の潜在意識に働きかけるというものです。
具体的に「アイアール・アルト」の個々の音が持つ音の質感を調べてみましょう。

A (口腔の開放→)明るさ、自然
  (何かに気づいたときに自然に出る音→)意識の向かう対象
I (するどい響き→)まっすぐに突き進む
R (舌を弾いて出す→)弾む感じ・リズム
U Rとの結合で弾む感じを強調*
T (舌を固くして息を強くぶつける→)硬さ・強さ
O Tとの結合で硬さ・強さを強調

*この他にRのリズム感はAが3回現れることでも強調されている
ように感じられます。

これらの性質をまとめてみると上のイメージができるわけですね。現実はともかく理想としてはなかなかいい線行ってるように感じます。さまざまな要望に対応できる軽いフットワークとクライアントの心を一気に掴む大胆さ。それらを支える確かな技術。いいじゃないですか。

ということで、わが社のネーミングの秀逸さが分ってメデタシメデタシで終わりたいところですが、困ったことにそういうわけにもいかないんです。この本、メルマガのネタ用に読み始めたはいいものの、実のところ途中からページをめくるのが嫌になってしまいました。たしかにエッセイとして読めばとても面白いし、ことばの音が固有のイメージを持つという直感には同意できますが、それを本格的に理論化したり、具体的に実際のことばを分析する応用編になる
と、とたんに胡散臭くなるんですね。あとづけ、こじつけ、決めつけが多すぎる!適当な一節を引用してコメントしてみましょう(134~135ページ。本書のタイトルに対する答にもなっている部分です。数字は引用者による)。

 Zの基本清音Sは①ブレイクスルー系ではないのだが、②Zでは、確実な濁音にするためいったん歯のうらに息を溜めて放出している。
舌で震わせる息の量を増やして、音響効果を上げているのだ。これにより、本来は膨張+放出の質を持たないSを基音にしながら、膨張+放出+振動の濁音創生に成功している。 ③膨張+放出のブレイクスルー系清音(K、T、P)は、男性の生殖行為における意識の質を刺激するが、④これに振動を加えた濁音は、さらなる力強さと膨張感、飛び散る賑やかさを加え、エンターテインメントの興奮を引き起こす。 ⑤科学、鉄道、銀河、銀座……昔も今も、男たちのロマンを掻き立てる単語は、濁音+ブレイクスルー系清音のみで構成されている。⑥中学時代のささやかなお年玉を鉄道模型や天体望遠鏡に捧げたかつての少年たちが、中年以降に銀座に交際費を捧げているのは、まったく同じ科学効果、すなわち、濁音+ブレイクスルーの魔法にかかっているのではないだろうか。

①著者の用語で止めた息を一気に吐き出す音、つまり通常破裂音と呼ばれる子音のことを指す。

②間違っています。[s]と[z]の違いは声帯の振動がある([z])かない([s])かだけです。2つの音を注意深く発音してみたのですが、[z]の場合声帯の振動が舌先にまで伝わっている感覚はあるにしろ破裂音だなんてことはないと思います。[g,
d, b, z]をまとめて「膨
張+放出+振動」の音としたいという願望が事実を捻じ曲げてしま
ったんですね。

③オスの生殖行為は溜まったものを放出することなので、男性は溜めた息を一気に放出する音が好き(なはず)だということですね。なんだか安易だなあ。こじつけをアンケートや実験で確かめるということはしないのかな?

④濁音になると「力強さと膨張感」が増すというのは直感としてはなんとなく分りますが、「飛び散る賑やかさ」「エンターテインメントの興奮」はちょっと飛躍のしすぎ。段々怪しくなってきたぞ!

⑤都合のよい単語だけを拾ってくるのは簡単。じゃあ、「飛行機」「車」「戦車」「恐竜」「化石」はどうなるの?どれも男の子が好きな(好きだとされる)モノなんですが…。だいたいこういうモノはどの国・文化でも男の子が好むと思いますが、そうすると生まれつきそうなのか、そう期待された結果なのかは措いても、少なくともことばの音とは無関係だと考えるのが自然じゃないですか?だって、英語じゃ科学は「サイエンス」鉄道は「レイルウェイ」ですよ。濁音じゃないし「ブレイクスルー」音ですらない。最後の「銀座」の唐突さには意表を突かれました!

⑥なんて陳腐なステレオタイプ…。だいたいこの本「男は~、女は~」っていう決めつけが多過ぎるんですよ。あっ、前に出てきた「エンターテインメントの興奮」っていう文句は「銀座」を入れたいがための伏線だったのね。

どうですか?理論としては穴だらけ、ほとんど詭弁なので、話のネタと割り切って「姓名判断」(と論理のアクロバット)を楽しむのが正解かも。

最後になりましたが、今年も「明るく弾む」アイアール・アルトをよろしくお願いいたします。

                      

文責:KA