しりとりの懐
そろそろ涼しくなってくる頃ですね。きっとセミの声も収まり、
「セミがうるさいね」や「暑いね」と言うことが少なくなり、それ
でもまだ「寒いね」というには早い季節でしょう。そんなとき、ふと
訪れる沈黙が怖い、なんて方いらっしゃいませんか? 長い赤信号や
電車待ちの間、誰かといるのに、携帯をいじりだしてしまうような。
沈黙にはしりとりなんていかがでしょう。用意するものは時間だけ。
とってもお手軽なゲームです。
・直前に言われた言葉の最後の文字からはじまる単語を言っていく。
・名詞に限る。一文字の単語はだめ。
・既に出た単語は使えない。(同音異義語も使えない。)
・最後に「ん」がつく単語を言ってしまうと負けになる。
・暗黙の了解:参加者に知られている単語に限る。
基本ルール以外にも参加者によって決められるルールがあります。
たとえば、音に関するルールで「クッキー」の次には「き」と「い」
のどちらが来るのかというルール、「鼻血(はなぢ)」の後は「じ」
から始まる単語で構わないというルールなどがそうです。
他には固有名詞をどこまで許容するか(人名は偉人なら可とか、
地名は県名まで可とか)というルールが作られます。問題になるよう
な語が初めて出た時に参加者が話し合ってルールを決めていくことが
ほとんどです。
また、しりとりの難易度を上げるために、偉人の名前だけのしりと
りや地名だけのしりとり、3文字限定や5文字限定などというルールを
追加することがあります。
筆者は先日しりとりをしていて、これは名詞なのかどうかとっさに
判断できないという語に出会いました。「ぬるめ」と「やる気ゼロ」。
その場では許容しましたが、いやいやでした。ずっと名詞かどうか気
になっていたので調べてみます。
「ぬるめ」
単独では辞書に載っていないようです。
「ぬるい(形容詞)」+「-目(接尾辞)」
学研国語大辞典では「-目」は『形容詞の語幹について、名詞・形
容動詞語幹をつくる』と述べられています。インターネットで検索す
ると、名詞使用例として「ぬるめはのぼせる恐れがある」や「飲むと
きはぬるめがおいしい」などがあり、形容動詞使用例として「ぬるめ
なお湯」などがありました。
名詞としても形容動詞としても使われる語、ということでしょうか。
「やる気ゼロ」
辞書には載っていないでしょう。
これは1単語であるかどうかがあやしいです。「やる気がゼロ」の
助詞を省略した形と見ることができます。インターネットで件数を比
較してみました。「やる気ゼロ」98200件、「やる気がゼロ」2230件、
「やる気はゼロ」107000件でした。単純比較はできないのですが、
「やる気ゼロ」をひとかたまりセットで使うことはかなり定着してい
るようです。使用例には「やる気ゼロ状態」「やる気ゼロモード」
「やる気ゼロになる展開」などがあります。品詞が何であるかはよく
わかりませんでした。連体詞か名詞かなあ、という程度。
しりとりには小学校に上がる前から遊べる、こどもの遊びという
イメージがありましたが、「ぬるめ」、「やる気ゼロ」といった語を
許容するか否かという個々の細かい問題から、名詞とは何かという難
しい問題まで、おとなにも難しい問題を含んでいます。辞書や
インターネットを駆使しても、自信をもった答えが出せませんでした。
心を広くもって楽しめばいいんでしょうけれど、気になるものは気
になるのです。純粋な気持ちで楽しむにしても、日本語の迷路にはま
るにしても、しりとりは楽しい遊びです。
2007.09
文責:茅