2007年9月のコラム

しりとりの懐



 そろそろ涼しくなってくる頃ですね。きっとセミの声も収まり、
「セミがうるさいね」や「暑いね」と言うことが少なくなり、それ
でもまだ「寒いね」というには早い季節でしょう。そんなとき、ふと
訪れる沈黙が怖い、なんて方いらっしゃいませんか? 長い赤信号や
電車待ちの間、誰かといるのに、携帯をいじりだしてしまうような。

 沈黙にはしりとりなんていかがでしょう。用意するものは時間だけ。
とってもお手軽なゲームです。



 ・直前に言われた言葉の最後の文字からはじまる単語を言っていく。

 ・名詞に限る。一文字の単語はだめ。

 ・既に出た単語は使えない。(同音異義語も使えない。)

 ・最後に「ん」がつく単語を言ってしまうと負けになる。

 ・暗黙の了解:参加者に知られている単語に限る。



 基本ルール以外にも参加者によって決められるルールがあります。

たとえば、音に関するルールで「クッキー」の次には「き」と「い」
のどちらが来るのかというルール、「鼻血(はなぢ)」の後は「じ」
から始まる単語で構わないというルールなどがそうです。

 他には固有名詞をどこまで許容するか(人名は偉人なら可とか、
地名は県名まで可とか)というルールが作られます。問題になるよう
な語が初めて出た時に参加者が話し合ってルールを決めていくことが
ほとんどです。

 また、しりとりの難易度を上げるために、偉人の名前だけのしりと
りや地名だけのしりとり、3文字限定や5文字限定などというルールを
追加することがあります。



 筆者は先日しりとりをしていて、これは名詞なのかどうかとっさに
判断できないという語に出会いました。「ぬるめ」と「やる気ゼロ」。
その場では許容しましたが、いやいやでした。ずっと名詞かどうか気
になっていたので調べてみます。


「ぬるめ」
 単独では辞書に載っていないようです。
「ぬるい(形容詞)」+「-目(接尾辞)」
 学研国語大辞典では「-目」は『形容詞の語幹について、名詞・形
容動詞語幹をつくる』と述べられています。インターネットで検索す
ると、名詞使用例として「ぬるめはのぼせる恐れがある」や「飲むと
きはぬるめがおいしい」などがあり、形容動詞使用例として「ぬるめ
なお湯」などがありました。

名詞としても形容動詞としても使われる語、ということでしょうか。



「やる気ゼロ」
 辞書には載っていないでしょう。

 これは1単語であるかどうかがあやしいです。「やる気がゼロ」の
助詞を省略した形と見ることができます。インターネットで件数を比
較してみました。「やる気ゼロ」98200件、「やる気がゼロ」2230件、
「やる気はゼロ」107000件でした。単純比較はできないのですが、
「やる気ゼロ」をひとかたまりセットで使うことはかなり定着してい
るようです。使用例には「やる気ゼロ状態」「やる気ゼロモード」
「やる気ゼロになる展開」などがあります。品詞が何であるかはよく
わかりませんでした。連体詞か名詞かなあ、という程度。



 しりとりには小学校に上がる前から遊べる、こどもの遊びという
イメージがありましたが、「ぬるめ」、「やる気ゼロ」といった語を
許容するか否かという個々の細かい問題から、名詞とは何かという難
しい問題まで、おとなにも難しい問題を含んでいます。辞書や
インターネットを駆使しても、自信をもった答えが出せませんでした。
心を広くもって楽しめばいいんでしょうけれど、気になるものは気
になるのです。純粋な気持ちで楽しむにしても、日本語の迷路にはま
るにしても、しりとりは楽しい遊びです。

         


2007.09


文責:茅