2003年10月のコラム

鳥の歌

 あなたは恐竜にハマったことがありますか?では始祖鳥はご存知ですか?恐竜(爬虫類)でもなく、鳥類でもないって習ったような気がする?そうでしょうそうでしょう。では、少し前の話題ですが、その始祖鳥と鳥の間、もっと鳥に近い生物の化石が発見されたということもご存知ですか?さすがですね。この発見が騒がれている理由。絶滅したと思われていた恐竜が、実は身近な存在である鳥類として現在に繁栄している可能性。あなたはどう思われますか?
 ヒッチコック監督のパニック映画の傑作「鳥」を見て以来、鳥が苦手という方も、家で小鳥を飼ったことがあるという人も、今日は鳥のお話です。

 私達、ヒトは音声を出しますが、鳥もモチロン音声を出します。
鳥の音声には昔から2種類あるといわれてきました。
1つが「地鳴<じな>き」と呼ばれるもの。もう1つが「さえずり」「歌」と呼ばれるものです。前者が数秒に1回、低く簡単な音声で周期的に鳴くのに対し、後者は長くて複雑です。オスしか「さえずら」ない種類がけっこうあり、例えば、ウグイス、カッコウ、カナリヤ、ジュウシマツなどがそうです。お馴染みの「ホーホケキョ」と「さえずる」「歌う」のがウグイスのオス。「さえずらない」「歌わない」のがメスです。

 

 鳥の「歌」に文法があるのではないかという説を唱えたのは千葉大の岡ノ谷一夫助教授です。
 鳥の歌の研究によく使われるのはソナグラフ(商標名)という機械です。「知ってる知ってる」と思われたあなた、そうです。これは横軸に時間、縦軸に周波数をとり、分析した音波などの周波数の持つエネルギーを濃淡で記録する装置です。ヒトの言語の研究のために米国のベル研究所で発明されたもので、米国のFBIではヒトの声の鑑定にも使われているそうですが、鳥もこの機械で声を調べることによって個体の識別ができるといわれています。

 

 この機械を使ってジュウシマツの複雑な歌を調べて分析を試みては悩んでいた岡ノ谷氏に、同僚の言語学者がそれは「有限状態文法」だと指摘しました。「有限状態文法」ってなんでしょう。これはヒトの言葉を研究する言語学の用語で、比較的単純な人工言語を記述するために使う形式的なシステムの一種です。複数のパターンと、それが表れる規則からなる文法規則です。
 この配列規則をジュウシマツの歌のソナグラフによる分析結果にあてはめてみたところ、「歌」に「文法」があるという見解にいたったわけです。しかもその「歌文法」はオスの個体各々によって異なっている。オスが自分の資質を(メスに)アピールするために複雑な「歌文法」を進化させたのではないかというのです。

 

 こういう研究をおもしろいと思うのは、ヒトの言語を調べるために発明されたマシンが鳥の研究に使用されたというところ。更に、鳥の歌を分析しようとしたら、ヒトの言語学の文法規則が「鳥の歌文法」を解く鍵になった。相互に関係しあっているというところ。
 「鳥の歌」を研究しているヒトに、行動学、生理学、神経科学、認知科学、心理学、音響学、情報工学などなど、様々な分野の学問の知識がこの先必要になってくるのかもしれません。お互いに影響し合い、助け合うことで、長年の謎、例えばヒトの文法の進化の解明につながっていくこともあるかもしれません。

 この説を読んで、興味を引かれたとあるヒトに話したところ、「じゃ、現在の少子化の原因は男性の話す言葉が魅力的でない(貧困だ)から?」と。そこで、「ヒトは女性も言葉を話すから同じことが女性にもいえるんでは」となって・・・

 最初になんで恐竜の話を出してきたか、おわかりになったでしょうか。恐竜の音声。恐竜の言語。恐竜も歌ったかも。秋の夜長に・・・長考・・・

2003.10

文責:a toli